$R$ を環, $M_{n}(R)$ を $R$ 上の $n$ 次全行列環, $\mathfrak{J}$ を $M_{n}(R)$ の両側イデアルとする. このとき, $R$ の両側イデアル $I$ で, $\mathfrak{J}=M_{n}(I)$ となるものが存在することを証明せよ. ここで, $M_{n}(I)$ は $I$ の元を成分とする $n$ 次正方行列全体である.
また, 上の命題において「両側イデアル」を「左イデアル」に置き換えると一般には成り立たない. そのような例を挙げよ.
解答例 1
各 $i$, $j$ に対して, $E_{ij}$ を行列単位とする. すなわち, $E_{ij}$ は $(i, j)$-成分が 1 で他の成分がすべて 0 であるような $M_{n}(R)$ の元である.
$I=\{a_{11}\mid [a_{ij}]\in\mathfrak{J}\}$ とおく. $I$ が $R$ の両側イデアルであることは容易に確かめられる.
$X=[x_{ij}]\in\mathfrak{J}$ とする. 各 $i$, $j$, $k$, $l$ に対して, $$ E_{ki}XE_{jl} = x_{ij}E_{kl}. $$ ここで, $k=l=1$ とおけば, $$ x_{ij}E_{11} = E_{1i}XE_{j1}\in\mathfrak{J} $$ となるから, すべての $i$, $j$ について, $x_{ij}\in I$. よって, $X\in M_{n}(I)$.
逆に, $X=[x_{ij}]\in M_{n}(I)$ とする. 行列成分によって, $$ X = \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}x_{ij}E_{ij} $$ と表せる. 各 $i$, $j$ に対して, $x_{ij}\in I$ だから, ある $A=[a_{ij}]\in\mathfrak{J}$ が存在して, $a_{11}=x_{ij}$. よって, $$ x_{ij}E_{ij} = a_{11}E_{ij} = E_{i1}AE_{1j}\in\mathfrak{J}. $$ ゆえに, $X\in\mathfrak{J}$. したがって, 逆の包含関係もいえる.
最後に, 例えば, $M_{2}(R)$ の左イデアル $$ \mathfrak{J}_{0} = \left\{ \begin{bmatrix} a & 0 \\ c & 0 \end{bmatrix} \Biggm| a, c\in R \right\} $$ を考える. $\mathfrak{J}_{0}$ の定め方から, $\mathfrak{J}_{0}\neq M_{2}(R)$. また, $I\neq R$ なる任意の左イデアル $I$ に対して, $1\not\in I$ であるから, $\begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 0 \end{bmatrix}\not\in M_{2}(I)$. ゆえに, $\mathfrak{J}_{0}\neq M_{2}(I)$.
最終更新日:2011年11月02日