Keywords: 二項定理
$R$ を環, $x$, $y\in R$ とし, $xy=yx$ であるとする. このとき, 任意の正の整数 $n$ に対して, \begin{equation} (x+y)^n = \sum_{r=0}^{n}\binom{n}{r}x^{n-r}y^{r} \tag{$*$} \end{equation} が成り立つことを証明せよ. ただし, $$ \binom{n}{r} = \begin{cases} \displaystyle\frac{n(n-1)(n-2)\cdots(n-r+1)}{r!}, & \mbox{$1\leq r\leq n$ のとき}, \\ 1, & \mbox{$r=0$ のとき} \end{cases} $$ は二項係数とする.
解答例 1
まず, 二項係数が整数であることを前提とせずに, $\mathbb{Q}\subseteq R$ の場合に ($*$) が成り立つことを, $n$ に関する数学的帰納法により証明する.
$n=1$ のとき, $$ x+y = \binom{1}{0}x+\binom{1}{1}y $$ となり, ($*$) は成り立つ.
$n>1$ とし, $n-1$ のとき ($*$) が成り立つと仮定する. そのとき, \begin{align*} (x+y)^n &= (x+y)(x+y)^{n-1} \\ &= (x+y)\sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-1-r}y^{r} \\ &= x\sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-1-r}y^{r} + y\sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-1-r}y^{r}. \end{align*} $xy=yx$ より, \begin{align*} (x+y)^n &= \sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-r}y^{r} + \sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-1-r}y^{r+1} \\ &= \sum_{r=0}^{n-1}\binom{n-1}{r}x^{n-r}y^{r} + \sum_{r=1}^{n}\binom{n-1}{r-1}x^{n-r}y^{r} \\ &= \binom{n-1}{0}x^{n} + \sum_{r=1}^{n-1}\left(\binom{n-1}{r}+\binom{n-1}{r-1}\right)x^{n-r}y^{r} + \binom{n-1}{n-1}y^{n}. \end{align*} 一方, 二項係数について, \begin{align*} &\binom{n}{0}=\binom{n}{n}=\binom{n-1}{0}=\binom{n-1}{n-1}=1, \\ &\binom{n-1}{r} + \binom{n-1}{r-1} = \binom{n}{r}\quad (1\leq r\leq n-1) \end{align*} が成り立つ. ゆえに, \begin{align*} (x+y)^n &= \binom{n}{0}x^{n} + \sum_{r=1}^{n}\binom{n}{r}x^{n-r}y^{r} + \binom{n}{n}y^{n} \\ &= \sum_{r=0}^{n}\binom{n}{r}x^{n-r}y^{r}. \end{align*} よって, $n$ のときも ($*$) が成り立つ.
したがって, すべての正の整数 $n$ に対して ($*$) の成り立つことが, $\mathbb{Q}\subseteq R$ の場合に証明された.
特に, $\mathbb{Q}[X]$ において, 任意の正の整数 $n$ に対して, $$ (1+X)^n = \sum_{r=0}^{n}\binom{n}{r}X^{r}. $$ 両辺の係数を比較すると, 左辺の多項式は整数係数なので, 右辺の多項式も整数係数でなければならない. したがって, $\displaystyle\binom{n}{r}$ ($r=0$, $1$, $\ldots$, $n$) は整数である.
$R$ が一般の環の場合, $+$ について $R$ は加法群をなすので, 自然に $\mathbb{Z}$ 加群と考えられる. よって, 二項係数が整数であることを仮定すれば, 上記の証明はそのまま一般の $R$ の場合にも適用できる.
最終更新日:2011年11月02日