$$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \renewcommand\limsup{\varlimsup} \renewcommand\liminf{\varliminf} $$

Keywords: 三角不等式

$K=\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ とする. $V$ を $K$ 上の計量ベクトル空間, $\bm{x}$, $\bm{y}\in V$ とする. このとき, \begin{equation} \begin{split} \lVert{\bm{x}+\bm{y}}\rVert &\leq \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert, \\ \lVert{\bm{x}-\bm{y}}\rVert &\leq \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert \end{split} \tag{$*$} \end{equation} が成り立つことを証明せよ.

解答例 1

まず, \begin{align*} \lVert{\bm{x} + \bm{y}}\rVert^2 &= (\bm{x} + \bm{y}\mid \bm{x} + \bm{y}) \\ &= (\bm{x}\mid \bm{x}) + (\bm{x}\mid \bm{y}) + (\bm{y}\mid \bm{x}) + (\bm{y}\mid \bm{y}) \\ &= \lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + (\bm{x}\mid \bm{y}) + \overline{(\bm{x}\mid \bm{y})} \\ &= \lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + 2\mathop{\mathrm{Re}}{(\bm{x}\mid\bm{y})}. \end{align*} また, 不等式 \begin{equation} \mathop{\mathrm{Re}}{(\bm{x}\mid\bm{y})}\leq\lvert{(\bm{x}\mid\bm{y})}\rvert \tag{1} \end{equation} より, \begin{align*} &\lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + 2\mathop{\mathrm{Re}}{(\bm{x}\mid\bm{y})} \\ &\leq \lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + 2\lvert{(\bm{x}\mid\bm{y})}\rvert. \end{align*} さらに, Schwarz の不等式 \begin{equation} \lvert{(\bm{x}\mid\bm{y})}\rvert \leq \lVert{\bm{x}}\rVert\cdot\lVert{\bm{y}}\rVert \tag{2} \end{equation} より, \begin{align*} &\lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + 2\lvert{(\bm{x}\mid\bm{y})}\rvert \\ &\leq \lVert{\bm{x}}\rVert^2 + \lVert{\bm{y}}\rVert^2 + 2\lVert{\bm{x}}\rVert\cdot\lVert{\bm{y}}\rVert \\ & = (\lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert)^2. \end{align*} ゆえに, $$ \lVert{\bm{x}+\bm{y}}\rVert^2\leq (\lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert)^2. $$ $\lVert{\bm{x}+\bm{y}}\rVert\geq 0$, $\lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert\geq 0$ であるから, $$ \lVert{\bm{x}+\bm{y}}\rVert\leq \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert $$ となる. したがって, ($*$) の1行目の不等式が成り立つ.

($*$) の1行目の不等式において等号が成立すると仮定すると, (1), (2) の両方において等号が成り立つ. (1) で等号が成り立てば, $(\bm{x}\mid\bm{y})$ は負でない実数である. さらに, (2) で等号が成り立てば, $\bm{y}=\bm{0}$ であるか, または, ある $c\in K$ が存在して $\bm{x}=c\bm{y}$ となる. 後者のとき, $$ c\lVert\bm{y}\rVert^2 = (c\bm{y}\mid\bm{y}) = (\bm{x}\mid\bm{y}). $$ ゆえに, $\bm{y}\neq\bm{0}$ ならば, $c\in\mathbb{R}$ かつ $c\geq 0$ である.

逆に, $\bm{y}=\bm{0}$ のとき, ($*$) の1行目の不等式において等号が成立するのは明らかである. また, $\bm{y}$ が必ずしも $\bm{0}$ でないとき, ある $c\in\mathbb{R}$, $c\geq 0$ が存在して $\bm{x}=c\bm{y}$ であると仮定すると, \begin{align*} \lVert{\bm{x}+\bm{y}}\rVert &= \lVert{(c+1)\bm{y}}\rVert = (c+1)\cdot\lVert{\bm{y}}\rVert \\ &= c\lVert{\bm{y}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert = \lVert{c\bm{y}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert \\ &= \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert \end{align*} となり, ($*$) の1行目の不等式において等号が成立する.

したがって, ($*$) の1行目の不等式において等号が成立するための必要十分条件は, $\bm{y}=\bm{0}$ であるか, または, ある $c\in\mathbb{R}$, $c\geq 0$ が存在して $\bm{x}=c\bm{y}$ となることである.

次に, ($*$) の1行目の不等式において, $\bm{y}$ に $\bm{-y}$ を代入すれば, $$ \lVert{\bm{x}-\bm{y}}\rVert \leq \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{-\bm{y}}\rVert = \lVert{\bm{x}}\rVert + \lVert{\bm{y}}\rVert. $$ したがって, ($*$) の2行目の不等式が成り立つ. また, 等号が成立するための必要十分条件は, $\bm{y}=\bm{0}$ であるか, または, ある $c\in\mathbb{R}$, $c\geq 0$ が存在して $\bm{x}=-c\bm{y}$ となることである.

最終更新日:2011年11月02日

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