$$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \renewcommand\limsup{\varlimsup} \renewcommand\liminf{\varliminf} $$

Keywords: Cauchy-Schwarz の不等式, コーシー・シュワルツの不等式

$n$ を正の整数, $a_1$, $a_2$, $\ldots$, $a_n$, $b_1$, $b_2$, $\ldots$, $b_n$ を実数とするとき, 不等式 \begin{equation} \left( \sum_{k=1}^na_kb_k \right)^2 \leq \left( \sum_{k=1}^na_k^2 \right)\left( \sum_{k=1}^nb_k^2 \right) \tag{$*$} \end{equation} が成り立つことを証明せよ.

解答例 1

まず, \begin{align} &\left( \sum_{i=1}^na_i^2 \right)\left( \sum_{j=1}^nb_j^2 \right) - \left( \sum_{k=1}^na_kb_k \right)^2 \notag \\ &= \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^na_i^2b_j^2 - \left( \sum_{k=1}^na_kb_k \right)\left( \sum_{k=1}^na_kb_k \right) \notag \\ &= \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^na_i^2b_j^2 - \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^na_ib_ia_jb_j \notag \\ &= \left( \sum_{i=1}^na_i^2b_i^2 + \sum_{i<j}a_i^2b_j^2 + \sum_{j<i}a_i^2b_j^2 \right) \notag \\ &\qquad - \left( \sum_{i=1}^na_i^2b_i^2 + \sum_{i<j}a_ib_ia_jb_j + \sum_{j<i}a_ib_ia_jb_j \right) \notag \\ &= \sum_{i<j}a_i^2b_j^2 + \sum_{i<j}a_j^2b_i^2 - 2\sum_{i<j}a_ib_ia_jb_j \notag \\ &= \sum_{i<j}(a_i^2b_j^2 + a_j^2b_i^2 - 2a_ib_ia_jb_j) \notag \\ &= \sum_{i<j}(a_ib_j-a_jb_i)^2 \geq 0. \tag{1} \end{align} したがって, 不等式 ($*$) が成立する.

次に, 不等式 ($*$) で等号が成立するのは, (1) において等号が成り立つとき, すなわち \begin{equation} a_ib_j - a_jb_i = 0\quad (i<j) \tag{2} \end{equation} のときである. $a_1=a_2=\cdots=a_n=0$ または $b_1=b_2=\cdots=b_n=0$ のとき, (2) が成立する. 以下, ある番号 $i_0$, $j_0$ が存在して $a_{i_0}\neq 0$, $b_{j_0}\neq 0$ であると仮定する. $i_0\neq j_0$ ならば, (2) より, $$ a_{j_0}b_{i_0} = a_{i_0}b_{j_0} \neq 0. $$ よって, $b_{i_0}\neq 0$ である. $\alpha=b_{i_0}/a_{i_0}$ とおく. (2) より, $$ a_{i_0}b_j = a_jb_{i_0} = \alpha a_{i_0}a_j\quad (j = 1, 2, \ldots, n). $$ ゆえに, $\alpha\neq 0$ かつ \begin{equation} b_j = \alpha a_j\quad (j = 1, 2, \ldots, n). \tag{3} \end{equation} 逆に, ある実数 $\alpha\neq 0$ が存在して (3) が成り立てば, (2) も成立する.

したがって, ($*$) において等号が成立するための必要十分条件は, 次のいずれかが成り立つことである.

解答例 2

$\displaystyle p = \sum_{k=1}^na_k^2$, $\displaystyle q = \sum_{k=1}^na_kb_k$, $\displaystyle r = \sum_{k=1}^nb_k^2$ とおく.

$p=0$ のとき, $a_1=a_2=\cdots=a_n=0$ なので, 不等式 ($*$) は成立する. 以下, $p\neq 0$ と仮定する. 任意の実数 $t$ に対して, \begin{align} pt^2 + 2qt + r &= t^2\sum_{k=1}^na_k^2 + 2t\sum_{k=1}^na_kb_k + \sum_{k=1}^nb_k^2 \notag \\ &= \sum_{k=1}^n(t^2a_k^2 + 2ta_kb_k + b_k^2) \notag \\ &= \sum_{k=1}^n(ta_k+b_k)^2 \geq 0. \tag{1} \end{align} よって, 2次方程式 \begin{equation} px^2 + 2qx + r = 0 \tag{2} \end{equation} の判別式を $D$ とすると, \begin{equation} q^2 - pr = \frac{D}{4} \leq 0. \tag{3} \end{equation} したがって、 不等式 ($*$) が成立する.

次に, 不等式 ($*$) における等号成立条件について考える.

$a_1=a_2=\cdots=a_n=0$ または $b_1=b_2=\cdots=b_n=0$ のとき, ($*$) において等号が成立する. 以下, それ以外の場合を考える. そのとき, $p\neq 0$, $r\neq 0$ である. $q^2=pr$ とすると, (3) より $D=0$ なので, 2次方程式 (2) は重解 $\alpha$ をもつ. $r\neq 0$ より $\alpha\neq 0$ である. また, (1) より $$ \sum_{k=1}^n(\alpha a_k + b_k)^2 = p\alpha^2 + 2q\alpha + r = 0. $$ よって, $$ (\alpha a_k + b_k)^2 = 0\quad (k=1, 2, \ldots, n). $$ ゆえに, \begin{equation} \alpha a_k + b_k = 0\quad (k=1, 2, \ldots, n). \tag{4} \end{equation} 逆に, ある実数 $\alpha\neq 0$ が存在して (4) が成り立てば, ($*$) において等号が成り立つ.

したがって, ($*$) において等号が成立するための必要十分条件は, 次のいずれかが成り立つことである.

解答例 3

$\displaystyle s = \sum_{k=1}^na_k^2$, $\displaystyle t = \sum_{k=1}^nb_k^2$ とおく. $s=0$ または $t=0$ のとき, $a_1=a_2=\cdots=a_n=0$ または $b_1=b_2=\cdots=b_n=0$ であるから, 不等式 ($*$) は成り立つ. 以下, $s\neq 0$ かつ $t\neq 0$ と仮定する.

各 $k=1$, $2$, $\ldots$, $n$ に対して, $a_k/s\geq 0$, $b_k/t\geq 0$ であるから, 相加相乗平均の関係より, \begin{equation} \frac{1}{2}\left(\frac{a_k^2}{s}+\frac{b_k^2}{t}\right) \geq \sqrt{\frac{a_k^2}{s}\cdot\frac{b_k^2}{t}} = \frac{a_kb_k}{\sqrt{st}}. \tag{1} \end{equation} 和をとると, $$ \frac{1}{2s}\sum_{k=1}^na_k^2 + \frac{1}{2t}\sum_{k=1}^nb_k^2 \geq \frac{1}{\sqrt{st}}\sum_{k=1}^na_kb_k. $$ 一方, $$ \frac{1}{2s}\sum_{k=1}^na_k^2 + \frac{1}{2t}\sum_{k=1}^nb_k^2 = \frac{s}{2s} + \frac{t}{2t} = 1. $$ ゆえに, $$ \frac{1}{\sqrt{st}}\sum_{k=1}^na_kb_k \leq 1. $$ したがって, $$ \frac{1}{st}\left(\sum_{k=1}^na_kb_k\right)^2 \leq 1. $$ 両辺に $st$ を掛けると, $$ \left(\sum_{k=1}^na_kb_k\right)^2 \leq st. $$ よって, 不等式 ($*$) が成り立つ.

不等式 ($*$) で等号が成立するのは, (1) において等号が成立するとき, すなわち, \begin{equation} \frac{a_k^2}{s} = \frac{b_k^2}{t}\quad (k=1, 2, \ldots, n) \tag{2} \end{equation} が成り立つときである. $\alpha = \pm\sqrt{t/s}$ とおく. ただし, $\alpha$ の符号は, $a_k$ と $b_k$ とが同符号なら正とし, 異符号なら負とする. そうすると, $\alpha\neq 0$ かつ \begin{equation} b_k = \alpha a_k\quad (k=1, 2, \ldots, n) \tag{3} \end{equation} である. 逆に, ある実数 $\alpha\neq 0$ が存在して (3) が成り立てば, ($*$) において等号が成り立つ.

したがって, ($*$) において等号が成立するための必要十分条件は, 次のいずれかが成り立つことである.

最終更新日:2011年11月02日

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