$$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \renewcommand\limsup{\varlimsup} \renewcommand\liminf{\varliminf} $$

Keywords: 相加相乗平均の関係

$n$ を正の整数, $a_1$, $a_2$, $\ldots$, $a_n$ を負でない実数とするとき, 不等式 \begin{equation} \sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_n} \leq \frac{a_1+a_2+\cdots+a_n}{n} \tag{$*$} \end{equation} が成り立つことを証明せよ.

解答例 1

$a_1$, $a_2$, $\ldots$, $a_n$ の中に $0$ となるもの存在すれば, それらの相乗平均は $0$ になるから, 不等式 ($*$) は明らかに成り立つ. 等号が成り立つためには, 相加平均のほうも $0$ でなければならないが, そうなるのは $a_1=a_2=\cdots=a_n=0$ のときだけである. 以下, $a_1$, $a_2$, $\ldots$, $a_n$ はすべて正であると仮定する.

$n$ に関する数学的帰納法により証明する.

$n=1$ のときは明らかである.

$n=2$ のとき, \begin{align} \left( \frac{a_1+a_2}{2} \right)^2 - a_1a_2 &= \frac{(a_1+a_2)^2-4a_1a_2}{4} \notag \\ &= \frac{(a_1^2+2a_1a_2+a_2^2)-4a_1a_2}{4} \notag \\ &= \frac{a_1^2-2a_1a_2+a_2^2}{4} \notag \\ &= \frac{(a_1-a_2)^2}{4} \geq 0. \tag{1} \end{align} $a_1$, $a_2$ は正の実数なので, $\sqrt{a_1a_2}$ もまた正の実数であり, \begin{align*}  &\left( \frac{a_1+a_2}{2} - \sqrt{a_1a_2} \right)\left( \frac{a_1+a_2}{2} + \sqrt{a_1a_2} \right)\geq 0, \\ &\frac{a_1+a_2}{2} + \sqrt{a_1a_2} > 0. \end{align*} ゆえに, $(a_1+a_2)/2 - \sqrt{a_1a_2}\geq 0$ が成り立ち, 不等式 ($*$) の $n=2$ の場合が得られる.

もし不等式 ($*$) において等号が成り立てば, (1) の $\geq$ のところで $=$ が成り立つ. よって, $a_1=a_2$ が得られる. 逆に, この条件が成り立つと不等式 ($*$) において等号が成り立つことは明らかである.

以上より, $n=2$ のときが証明された.

一般の $n$ について証明するために, $n-1$ 以下のすべての正の整数に対して不等式 ($*$) が成り立つと仮定する.

$n-1$ より大きい偶数のうちで最小のものを $m$ とし, $m'=m/2$ とおく. $n>2$ のとき $m'\leq n-1$ であるから, \begin{align} \frac{a_1+a_2+\cdots+a_m}{m} &= \frac{\displaystyle\biggl.\frac{a_1+a_2+\cdots+a_{m'}}{m'}+\frac{a_{m'+1}+a_{m'+2}+\cdots+a_{2m'}}{m'}\biggr.}{2} \notag \\ &\geq \sqrt{\bigl.\frac{a_1+a_2+\cdots+a_{m'}}{m'}+\frac{a_{m'+1}+a_{m'+2}+\cdots+a_{2m'}}{m'}\bigr.} \tag{2} \\ &\geq \sqrt{\sqrt[m']{a_1a_2\cdots a_{m'}}\sqrt[m']{a_{m'+1}a_{m'+2}\cdots a_{2m'}}} \tag{3} \\ &= \sqrt[m]{a_1a_2\cdots a_{m}}. \notag \end{align} 等号が成り立つのは, (2), (3) の $\geq$ がともに $=$ のとき, すなわち \begin{align*} & \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{m'}}{m'} = \frac{a_{m'+1}+a_{m'+2}+\cdots+a_{2m'}}{m'}, \\ & a_1=a_2=\cdots=a_{m'},\quad a_{m'+1}=a_{m'+2}=\cdots=a_{2m'} \end{align*} がすべて成り立つときである. これは, $a_1=a_2=\cdots=a_{m}$ と同値である. したがって, 帰納法の仮定のもとで, $m$ について不等式 ($*$) は成り立つ.

$n$ が偶数のとき, $m=n$ である. この場合の証明はすでに完了している.

$n$ が奇数のとき, $m=n+1$ である. $\displaystyle a_{n+1} = \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{n}}{n}$ とおくと, $a_{n+1}>0$ であり, \begin{align*} &\frac{a_1+a_2+\cdots+a_{n+1}}{n+1} \geq \sqrt[n+1]{a_1a_2\cdots a_{n+1}} \\ &\qquad\Longleftrightarrow \frac{na_{n+1}+a_{n+1}}{n+1} \geq \sqrt[n+1]{a_1a_2\cdots a_{n+1}} \\ &\qquad\Longleftrightarrow a_{n+1} \geq \sqrt[n+1]{a_1a_2\cdots a_{n+1}} \\ &\qquad\Longleftrightarrow a_{n+1}^{n+1} \geq a_1a_2\cdots a_{n}a_{n+1} \\ &\qquad\Longleftrightarrow a_{n+1}^n \geq a_1a_2\cdots a_{n} \\ &\qquad\Longleftrightarrow a_{n+1} \geq \sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_{n}} \\ &\qquad\Longleftrightarrow \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{n}}{n} \geq \sqrt[n]{a_1a_2\cdots a_{n}}. \end{align*} ゆえに, 帰納法の仮定のもとで, $n$ が奇数の場合にも不等式 ($*$) が成り立つ. また, 等号が成り立つための必要十分条件は $$ a_1=a_2=\cdots=a_n=\frac{a_1+a_2+\cdots+a_{n}}{n} $$ であり, これは $a_1=a_2=\cdots=a_n$ と同値である.

以上より, すべての正の整数 $n$ について不等式 ($*$) が証明された.

解答例 2

$n$ に関する数学的帰納法によって証明する.

$n=1$ のときは明らかである.

$n=k$ のとき不等式 ($*$) が成り立つと仮定し, $n=k+1$ のときを考える. まず, 不等式 ($*$) の対称性により, $a_1\leq a_2\leq \cdots\leq a_{k+1}$ と仮定しても一般性を失わない. 次に, $$ f(x) = \left( \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{k}+x}{k+1} \right)^{k+1} - a_1a_2\cdots a_kx $$ とおく. 不等式 ($*$) を証明するためには, $f(a_{k+1})\geq 0$ を示し, $f(a_{k+1})=0$ となるための必要十分条件が$a_1=a_2=\cdots=a_{k+1}$ であることを示せばよい. $f(x)$ を $x$ について微分すれば, \begin{align*} f'(x) &= (k+1)\left( \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{k}+x}{k+1} \right)^{k}\frac{1}{k+1} - a_1a_2\cdots a_k \\ &= \left( \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{k}+x}{k+1} \right)^{k} - a_1a_2\cdots a_k. \end{align*} さらに微分すると, $$ f''(x) = \frac{k}{k+1}\left( \frac{a_1+a_2+\cdots+a_{k}+x}{k+1} \right)^{k-1}. $$ $f'(x)$ は区間 $[0,\infty)$ において単調増加である. 実際, $k=1$ のとき, $f''(x)=1/2>0$ である. また, $k>1$ のとき, $x\geq 0$ ならば, $a_1+a_2+\cdots+a_{k}+x>0$ なので, $f''(x)>0$ となる.

$b_k=(a_1+a_2+\cdots+a_k)/k$ とおくと, 帰納法の仮定から $b_k\geq \sqrt[k]{a_1a_2\cdots a_k}$. また, $$ \frac{a_1+a_2+\cdots+a_k+b_k}{k+1} = \frac{kb_k+b_k}{k+1} = b_k. $$ よって, \begin{equation} f'(b_k) = b_k^k - a_1a_2\cdots a_k \geq 0. \tag{1} \end{equation} $b_k>0$ であり, 区間 $[0, \infty)$ において $f'(x)$ は単調増加だから, 区間 $[b_k,\infty)$ において $f'(x)\geq 0$ が成り立つ. さらに, \begin{equation} f(b_k) = b_k^{k+1} - a_1a_2\cdots a_kb_k = f'(b_k)\cdot b_k \geq 0. \tag{2} \end{equation} したがって, $x\geq b_k$ なるすべての実数 $x$ に対して $f(x)\geq 0$ が成り立つ. 一方, $a_1\leq a_2\leq \cdots\leq a_{k+1}$ と仮定したから, $$ a_{k+1} = \frac{ka_{k+1}}{k} \geq \frac{a_1+a_2+\cdots+a_k}{k} = b_k. $$ ゆえに, $f(a_{k+1})\geq 0$. これより, $n=k+1$ の場合の不等式 ($*$) が得られる.

$f(a_{k+1})=0$ が成り立つとする. $a_{k+1}\in [b_k,\infty)$ であり, 区間 $(b_k,\infty)$ においては $f'(x)>0$ かつ $f(x)>0$ だから, \begin{equation} a_{k+1}=b_k,\quad f(b_k) = 0 \tag{3} \end{equation} でなければならない. (3) の $2$ 番目の条件と (2) の等式と $b_k>0$ から, $f'(b_k)=0$. これと (1) の等式と帰納法の仮定から, $a_1=a_2=\cdots=a_k$. さらに, (3) の 1番目の条件により, $a_1=a_2=\cdots=a_{k}=a_{k+1}$ が得られる. 逆に, この条件が成り立つとき $f(a_{k+1})=0$ となることは明らかである.

以上より, すべての正の整数 $n$ について不等式 ($*$) が証明された.

解答例 3

$I=(0, \infty)$, $f(x)=-\log x$ とおく. 任意の $x\in I$ に対して, \begin{align*} & f'(x) = -\frac{1}{x}, \tag{1} \\ & f''(x) = \frac{1}{x^2}. \tag{2} \end{align*} (2) より $f''(x)>0$ であるから, $f(x)$ は $I$ 上の狭義凸関数である. よって, 任意の$a_k\in I$ ($k=1$, $2$, $\ldots$, $n$) に対して, 不等式 $$ f\left( \sum_{k=1}^{n}p_ka_k \right) \leq \sum_{k=1}^{n}p_kf(a_k) $$ が成り立ち, 等号は $a_1=a_2=\cdots=a_n$ のときに限り成り立つ.

$a_1=a_2=\cdots=a_n$ でないとき, $p_k=1/n$ ($k=1$, $2$, $\ldots$, $n$) とおくと, $$ f\left( \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k \right) < \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}f(a_k). $$ すなわち, $$ -\log\left(\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k\right) < -\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}\log(a_k) = -\log\bigl((a_1a_2\cdots a_n)^{\frac{1}{n}}\bigr). $$ (1) より $-\log x$ は狭義単調減少だから, $$ \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}a_k > (a_1a_2\cdots a_n)^{\frac{1}{n}} $$ となる. よって, ($*$) の $\leq$ を $<$ にした式が成り立つ.

$a_1=a_2=\cdots=a_n$ のとき, 直前の議論において $<$ をすべて $=$ に置き換えれば, ($*$) の $\leq$ を $=$ にした式が得られる.

以上により, いずれの場合においても不等式 ($*$) が成り立ち, 等号は $a_1=a_2=\cdots=a_n$ のときにのみ成り立つことが示された.

最終更新日:2011年11月02日

©2003-2011 よしいず