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ユークリッドの原論

 理論的に体系化された幾何学は古代ギリシアに始まります.ユークリッドは古代から知られていた幾何学の結果を集大成した「原論」という本を書きました.そして,「原論」から発達した幾何学は,現在ではユークリッド幾何学と呼ばれています.

 「原論」では,いくつかの定義,公準,公理から出発し,証明を積み上げるスタイルによって図形の性質を系統的に体系化しています.このような体系化のスタイルは現在の数学にも取り入れられています.

平行線の公理とは

 ユークリッドの「原論」の5番目の公準に「2つの直線と交わる1つの直線が同じ側につくる内角の和が2直角(つまり180°)より小さいならば,2つの直線をその側に伸ばせばどこかで交わる」というものがあります.この公準がいわゆる平行線の公理です.

 平行線の公理は,「1つの直線とその直線上にない1つの点が与えられたとき,その点を通りかつその直線と平行な直線は存在するならばただ1つである」という命題と同値です.つまり,平行線の公理と同値なのはあくまで平行線の一意性なのです.実際,「1つの直線とその直線上にない1つの点が与えられたとき,その点を通りかつその直線と平行な直線が存在する」ということを示すだけであれば平行線の公理は必要なく,他の4つの公準から導くことが可能です.

 「原論」が世に出てから約2千年もの間,平行線の公理を他の公準から証明しようという試みが多くの数学者によって試みられましたが,すべて失敗に終わりました.最終的には「平行線の公理を否定しても矛盾が生じない」という意外な結論に達したのでした.

非ユークリッド幾何学

 1800年代前半,ロバチェフスキーとボヤイがそれぞれ独立に,平行線の公理を「1つの直線とその直線上にない1つの点が与えられたとき,その点を通りかつその直線と平行な直線が少なくとも2つ存在する」という条件に置き換えても矛盾のない幾何学の体系を構築できることを示し,平行線の公理が他の4つの公準からは決して導けないことを示しました.ロバチェフスキーやボヤイが構築した幾何学は双曲幾何学と呼ばれています.

 その後,リーマンが平行線の公理を「2つの直線は必ず交わる」という条件に置き換えても幾何学の体系が構築できることを示しました.この幾何学は楕円幾何学と呼ばれています.そして,双曲幾何学と楕円幾何学を総称して非ユークリッド幾何学と呼ばれています.今日では,非ユークリッド幾何学以外にも,ユークリッド幾何学と異なる幾何学が数多く発見されています.

リーマン幾何学

 1854年,リーマンは新しい幾何学を考案します.それはリーマン幾何学と呼ばれ,リーマン計量と呼ばれる写像が与えられた微分可能多様体を研究対象とする微分幾何学です.また,そのような多様体はリーマン多様体と呼ばれます.1916年にアインシュタインが一般相対性理論にリーマン幾何学を応用し,それによってリーマン幾何学は大きく注目されるようになりました.

 リーマン幾何学は非ユークリッド幾何学の一般化となっています.実際,リーマン多様体として双曲空間や球面を考えた場合がそれぞれ楕円幾何学や双曲幾何学です.

エルランゲン・プログラム

 1872年,クラインは,空間とその空間における変換からなる群を与えたとき,その群に属するすべての変換によって不変なものとして,これまでの多くの幾何学が特徴づけられることを指摘しました.この群論によって幾何学を統合するという考え方はエルランゲン・プログラムと呼ばれています.例えばユークリッド幾何学は,距離が与えられた平面と長さを変えない変換からなる群が与えられたものと考えることができます.一般に,さまざまな空間や変換群を与えることにより数多くの幾何学が得られます.

 しかし,エルランゲン・プログラムは万能ではなく,リーマン幾何学はその例外であることが知られています.その後,カルタンとワイルは,レヴィ・チヴィタが考案した接続の考え方を用いて,エルランゲン・プログラムとリーマン幾何学をより高い見地から統一しました.

関連書籍

小林昭七(著): ユークリッド幾何から現代幾何へ,日本評論社,1990

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