$$ \newcommand\bm[1]{\boldsymbol{#1}} \renewcommand\limsup{\varlimsup} \renewcommand\liminf{\varliminf} $$

$K$ を体とし, $M_n(K)$ を $K$ 上の $n$ 次行列環とする. このとき, 任意の $A\in M_n(K)$ に対して, $$ \mbox{$A$ が左零因子} \Longleftrightarrow \det A = 0 \Longleftrightarrow \mbox{$A$ が右零因子} $$ が成り立つことを証明せよ.

解答例 1

$A$, $X\in M_n(K)$ のとき, $X=(\mathbf{x}_1, \mathbf{x}_2, \ldots, \mathbf{x}_n)$ のように, $K$ の元を成分にもつ列ベクトルに区分けすると, $$ AX=(A\mathbf{x}_1,\,A\mathbf{x}_2,\,\ldots,\,A\mathbf{x}_n) $$ が成り立つ.

$A$ が左零因子ならば, ある $X\in M_n(K)$ が存在して, $AX=O$ かつ $X\neq O$. 前半の条件から, $$ A\mathbf{x}_1 = \mathbf{0},\quad A\mathbf{x}_2 = \mathbf{0},\quad \ldots,\quad A\mathbf{x}_n = \mathbf{0}. $$ 後半の条件から, ある番号 $i$ が存在して, $\mathbf{x}_i\neq\mathbf{0}$. ゆえに, $\det A = 0$. 逆に, $\det A = 0$ ならば, ある列ベクトル $\mathbf{x}\in K^n$ が存在して, $\mathbf{x}\neq 0$ かつ $A\mathbf{x}=\mathbf{0}$. このとき, $X=(\mathbf{x}, \mathbf{0}, \ldots, \mathbf{0})$ とおくと, $X\neq O$ かつ $AX=O$ が成り立つ. すなわち, $A$ は左零因子である. したがって, $A$ が左零因子であることは, $\det A=0$ と同値である.

$A$, $Y\in M_n(K)$ のとき, $YA=O$ の両辺の転置行列をとると, $$ {}^tA{}^tY={}^t(YA)={}^tO = O. $$ 逆に, ${}^tAY=O$ の両辺に転置行列をとると, ${}^tYA=O$ となる. よって, $A$ が右零因子であることと, ${}^tA$ が左零因子であることとは同値である. 後者の条件は, $\det {}^tA=0$ と同値である. $\det {}^tA=\det A$ だから, 結局, $A$ が右零因子であることは $\det A=0$ と同値である.

最終更新日:2011年11月02日

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